AID

 基本的に不妊治療を受けている人でも、
自分が受けてきた治療や、
受けようとしている治療以外には、
案外興味がなかったり知識がなかったりします。

 そういう意味では、
AID(非配偶者間人工授精)のことを知らない人は、
結構いるのではないでしょうか?

 AIDは非配偶者間での人工授精ですから、
例えば無精子症などで精子が取り出せない男性の代わりに、
健康な第三者の男性の精子で人工授精を行います。
この場合、
子どもと母親には血の繋がりはありますが、
父親とはありません。

 当院の近くでは、
大阪市立大学の医学部生の精子を使い、
AIDが行われていたと記憶しています。

 AIDに限らず、
あまり自分の子どもに、
今まで受けてきた治療の話をする人は少ないでしょう。
特にAIDは自分の夫以外の精子を使うため、
自分の父親と血の繋がりがないことや、
自分の父親が誰かを知りたいという気持ちから、
様々な葛藤が生まれることは想像に難くありません。

 今回、
AIDにより生まれた方や大学教授らが、
市民団体を発足させました。
これは基本的にはAID反対ということですが、
それ以上に、
「社会にこうした問題を認知してもらいたい。」
ということのようです。

 生まれてくる子供は受け身ですから、
親を選んだり、
親の妊娠のあり方を選ぶ術はありません。

 生まれてから十分な愛情を掛けて育てても、
親の死などで不意にAIDの事実を知った人は、
かなりの衝撃を受けるそうです。
その時には弁明すべき当事者はいないのですから、
事情の説明なども出来ません。

 AIDの施行においては、
後々こうした事態があることも想定し、
当事者への十分な説明が必要です。
これが今までは、
十分に体制として整っていなかったということでしょうか。

 倫理的な問題と、
科学的な使命や課題は、
しばしば一致しないこともあります。
今回の市民団体結成は、
こうした現状に当事者として一石を投じるものです。
反対だけでなく、
是非建設的な意見が出ればと思います。